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「どうして給食を拒否するの?」患者への聞き取りを始めました

(2012年6月4日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 2011年12月に、外科病棟で試験的に導入した補完食高エネルギー高タンパク質食

 今年の2月より順次その他の病棟にも導入し、6月現在、感染症病棟を除く各病棟で提供しています。導入直後は医師・看護師による処方ミスも散見されましたが、現在ではその数もずいぶん減りました。処方数も順調に増え、全処方数の20%ほどを占めています。

 ところが、補完食の受け取りを拒否する保護者がいることがわかりました。
 理由は何か?味が悪いのか?患者の体調に合わないのか?
 疑問に思った栄養科主任のリム・ソチェト医師は、患者からの聞き取りを開始しました。
 「こんにちは。お子さんの具合はどうですか?」
 まず、医師の訪問を受けて緊張している患者の保護者をリラックスさせます。そして、補完食を受け取らない理由を聞き、理由に応じて患者に助言をします。

 聞き取りの結果、受け取らない理由は大別して二つあることがわかりました。ひとつは口や喉に痛みがあって食べられない、もうひとつは患者が食べたがらないというものです。前者の場合は流動食への変更を医師に依頼しますが、後者の場合はまず補完食の利点を説明します。
 「補完食には赤ちゃんに必要な栄養素がたくさん含まれています。食べることって赤ちゃんが元気になるためにとても大切なことなんです。少しずつでもいいから赤ちゃんに食べさせてあげてくださいね。」
 アドバイスを受けたあと、母親は子どもに補完食を食べさせるよう努力するようになっています。
 きちんと食べてもらってこそ、病態や年齢に合った食事が意義を持ちます。そのために大切なのは、患者の家族の理解を促進する、細やかな働きかけなのです。

聞き取りのため患者のもとを訪れるソチェト医師(右)



伝統と信仰、家族への愛に満ちたクメール正月

(2012年4月23日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 カンボジアには年に3回の正月があります。1月1日、中華正月(年により異なる。1月下旬~2月中旬)、そしてカンボジア人が最も盛大に祝う4月のクメール正月です。今年は13~15日でした。

 クメール正月について尋ねると、カンボジア人の同僚が熱心に話してくれたのが、福を運んでくる天からの使者を迎える準備のことです。王宮が毎年発行する新年の祝い方を記した公式ガイドブックによると、今年は金曜日に新年が始まるため「金曜日の女神」が龍(その年の干支の動物)に導かれてやってきて、1年間人々の暮らしが平穏無事であるよう見守るそうです。そして、昨年人々を見守ってくれた「木曜日の女神」(新年の始まりが木曜日でした)とうさぎは、任務を終えて天に帰還します。
 使者を迎えるにあたり大切なのが、玄関に果物やお菓子、お香に加え、女神の好物をお供えしておくこと。女神の好物は、毎年王宮からガイドブックやテレビ、ラジオを通じて国民に告知されるというから驚きです!この使者が、カンボジア国民にとってどれだけ重要かを物語っています。
 ちなみに、3月に発表された今年のお供えものは、バナナ。今年やってきた女神はバナナがお好きなんですね。

 もう一つ、私にとって印象的だったのは、伝統や信仰、家族とのつながりを尊ぶ3日間の過ごし方でした。家族が一同に会し、連れだってお寺を訪れます。初日は料理を寺に供え、2日目には持ち寄った砂を盛って小山を5つ作ります。3日目には砂山に線香を立てて回り、この1年に犯した過ちへの許しを請い、新年の成功と幸福を祈ります。
 日頃から高齢者や親を大切にするカンボジアの人々ですが、特に正月2日目は年長者を敬う日とされ、子が親や祖父母に贈り物をします。そして3日目には蓮やジャスミンの花を浮かべた水で彼らの身を洗い清め、彼らの健康と長寿を祈ります。こうして伝統と信仰、そして家族への愛に満ちたカンボジアの人々の正月は幕を閉じます。

 正月明け。今年3度目の新年の挨拶を交わしながら集まった栄養科の仲間たちは、思いも新たに仕事を開始しました。

女神を迎えるための祭壇。女神のためにメイクアップ道具をお供えする家庭もあるのだとか。 カンボジアの正月料理といえば、肉・芋・野菜をたっぷりのハーブとココナツミルクで煮込んだカンボジア風カレー。
辛さは全くありません。パンや米の麺とともに食されます。
一族でお寺に集まり、
先祖の霊に祈りを捧げます。
砂山をつくり線香を立てる儀式の様子。

多くの人が順に砂を盛るため、大きな砂山になります。



いよいよ、特別食・補完食の提供を始めました

(2012年2月24日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 2011年12月1日より、国立小児病院(NPH)で特別食補完食 の提供が始まりました。
 まずは外科病棟のみで試行し、献立内容や医師からの処方、配膳方法に問題がないかチェックをしています。また、同時に試行をはじめた「看護師が、患者が実際に食べた量を患者の元に行き確認する」業務についても、取り組み状況を注視しています。

 今回始めた特別食 は、「高カロリー高タンパク質食」で、一般食 と豆乳をセットにしたもの。エネルギーおよび栄養素の量を正確にコントロールするため、予めお弁当箱に詰めておき、該当する患者のもとに届けます。一方、補完食 は、魚や肉、野菜を細かく刻んだものを加えたお粥で、こちらもお弁当箱で配膳します。お弁当箱は、より衛生的に配膳するために新たに取り入れました。配膳後すぐに患者が食べない場合でも、ふたのついたお弁当箱が食事をハエなどから守り、衛生的に保ちます。

 開始当初は該当する患者がいても、特別食補完食 が処方されず、栄養科職員が主治医に適切な食種への変更を働きかけました。しかし今は、主治医がきちんと処方できるようになりました。また調理員も補完食 の調理に慣れ、手際よくできるようになりました。

 それぞれの患者に適した食事を提供するためには、食事を処方する医師や看護師の協力が欠かせません。今後は、外科病棟以外の病棟でも高カロリー高タンパク質食・補完食の説明会を開き、これらの食事がNPHの全病棟で導入されることを目指します。


高カロリー高タンパク質食を受け取った患者(5歳)とその保護者。お弁当箱は三段に分かれています。
この患者は上腕部骨折と脱毛と診断されました。脱毛から、低栄養状態が推測されます。
補完食を受け取った患者の保護者。
お弁当箱は小さ目でふたつきです。
補完食を食べる
幼い患者(7か月)