(2013年12月16日)
カンボジア事務所 ニエン・モリカ(プロジェクト・マネージャー)
10月28日から11月4日、病院給食プロジェクトについて日本国際保健医療学会学術大会で発表するため、カンボジアから日本に出張しました。出張中は、FIDRイブニングフォーラムにおいても当プロジェクトの報告を行ったほか、病院や小学校を訪問し、日本の給食システムや栄養教育について学びました。 病院は聖路加国際病院を、小学校は台東区立蔵前小学校を訪問しました。いずれの場所においても、見聞きしたことは、驚いたり感銘をうけることばかりでした。 聖路加国際病院の給食システムは、カンボジア国立小児病院(NPH)のそれと比べて非常に大規模で、厳格なルールの下に管理されていました。1日に約1200食、30種類以上もの食事を用意するという大変な業務をこなす調理員は、看護師を通して伝えられる患者からの感謝のメッセージにやる気をもらっていると話してくれました。NPHでは、栄養科職員や調理員が、給食に関して、患者の意見を聴く機会がほとんどありません。給食システムの継続的な向上や調理員のモチベーション向上のためにも、患者の声を聞く機会を増やす必要性を感じました。 台東区立蔵前小学校は、都内でも栄養教育に非常に熱心に取り組んでいる学校の一つです。栄養教諭と担任の先生が協力して工夫に富んだ教材を用意し、栄養について教えたり、廊下に教材を掲示するなどして、児童が親しみを持って栄養に関する知識を学ぶことができる環境を整えておられました。当日、先生が一生懸命説明してくださる様子に、心が温かくなりました。拝見した数々の教材は、NPHの患者だけでなく調理員への栄養教育にも利用したいと考えています。 日本滞在中に食べた食事は、どれも彩りよく、栄養バランスの考えられたもので、日本人の栄養に関する意識の高さを感じました。 初めての、そして念願だった日本訪問。色々な新しい経験をし、多くを学ぶ時間となりました。日本での学びは、今後、プロジェクトにはもちろん、私自身と家族の食生活にも活かしていきたいです。 日本でお世話になった皆様、本当にありがとうございました。
|
【8年間のプロジェクトを振り返って①】
7年間で、7種類の給食が提供できるようになりました
(2013年10月8日)
カンボジア事務所 齋藤志野(管理栄養士)
衛生的な調理場も、栄養計算に基づく献立も、食事箋(医師の処方に基づく給食の指示書)もない状態からスタートした、国立小児病院(以下、NPH)における給食支援プロジェクト。約8年に及ぶ取り組みを経て、現在の給食システムが出来上がりました。 2007年当初1種類からスタートした給食の種類は、現在7種類。一般食、軟菜食、流動食(豆乳)、補完食、高エネルギー高たんぱく質食、減塩食、そして無塩の補完食です。 NPHの患者の年齢構成や症状、時には現場の医師の要望に合わせて徐々に種類を増やし、より患者の状態に適した給食を提供するよう努めています。 新しい種類の給食の導入にかかる時間は、半年~1年。栄養計算をした献立の開発をはじめとして様々な準備を行いますが、大半の時間は、栄養科の職員や調理員との話し合いに費やされました。 まず、患者の年齢や容態に対応するために、新食種を導入する必要があることに納得してもらいます。その後、導入に伴い必要な業務について調理員と話し合います。調理員からは、食種が増える毎にどんどん細分化される業務への不安や、仕事が増えることへの不満の声が常に上がります。ですから栄養科主任のソチェト医師を中心に、不安や不満の打開策を話し合い、全員が納得できる方法を模索してきました。
例えば、補完食の導入に際し、レシピ通りに材料を計量して調理することに難色を示した調理員たち。カンボジアでは一般的に、調理にあたって食材を計量することはありません。さらに、計算ができなかったり、文字が読めない人もいます。そこで、計量係と調理係を分けることで、ひとりにかかる負担を軽減しました。今では、「わたしたちの給食は患者さんに必要な栄養価が含まれるように計算されている。だからきちんとレシピ通りに作らないとだめなのよ」と、一般食の材料も計量するまでになりました。 改善の余地はまだまだあります。でも、できることから少しずつ。誰かに押し付けられるのではなく、自分たちが作り上げたという自負だけが彼女たちの責任感を醸成し、新たな展開への自信となっていきます。 |
(2013年8月2日)
カンボジア事務所 齋藤志野(管理栄養士)
乳児期に摂取する栄養は、その後の子どもの健康状態を大きく左右します。そこでプロジェクトでは、生後6ヶ月を過ぎた赤ちゃんに、母乳のみでなく栄養価の高い補完食を与えるよう患者の保護者に働きかけるため、補完食の作り方や調理上の注意点を収めた啓発ビデオを制作し、6月から外来患者の待合室で上映をはじめました。 診察を待つ間、ビデオに見入る患者の保護者や子どもたち。お母さんたちからは「こうやって作ればいいのね。今度、家でやってみるわ」、「うちの子、もうすぐ生後6ヵ月になるの。あと一週間したら、作って子どもに食べさせてみるわ」、「子どもが小さい時に知っていたら作ってあげたかった」などの感想が聞かれています。 放映開始までには、プロジェクト副マネージャーであるモリカ職員の、約10か月にわたる奮闘がありました。制作にあたっては、これまでにご紹介した数々の工夫に加え、お母さんたちにとって理解しやすい言葉を選んで台本を作ったり、登場するキャラクターの服装や声をより魅力的にしたりするよう調整を重ねました。 最も時間を要したのは、FIDRの支援でビデオ上映用に設置したテレビを適切に管理し、目的通りに使ってもらうための病院側との合意形成でした。この病院でも、支援機器が壊れたまま放置されることや、いつの間にか別の用途に使われてしまうことがあったからです。モリカ職員は何度も院長に交渉し、合意を取り付けました。 このような工夫と苦労の末に始まった栄養教育。ビデオを見るお母さんを見つめるモリカ職員の横顔は、FIDR職員としてだけでなく、子の健康を願うひとりの母として、栄養教育に携わる喜びで満ちていました。
|