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国立小児病院前、屋台事情

(2013年6月3日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 カンボジアの食を語る上ではずせないのが、屋台。天秤棒で担ぐタイプから定番のリヤカー、バイクに屋台を固定して走るサイドカー屋台まで、街を歩けばそこかしこに屋台が行き交うのを見ることができます。移動式の安食堂もしくは食品店といったところで、人々は軽食やおやつを購入するために日常的に利用しています。

 人が集う場所には屋台も集まります。FIDRが給食支援プロジェクトを行う国立小児病院(NPH)前は恰好の出店スポット。患者の付き添い家族、病院関係者、これらの人々を待ち構えるトゥクトゥクの運転手など、お客さんにはこと欠きません。
NPH前の屋台。FIDR職員もよくお世話になっています

 NPHの前では、時間帯によって集まる屋台が異なります。朝は、カンボジア風のそうめん「ノムバンチョック」や焼きうどんを売る屋台。これらの朝食を買い求める人々で賑わいます。朝食時間帯を過ぎると揚げパンや焼きバナナ、カットフルーツなどのおやつを売る屋台がやってきて、所定の位置に着くとしばらく商いを続けます。夕方までにはほぼすべてのおやつ屋台が引き上げ、入れ替わりに干し肉やするめの炙り焼き、カンボジアの人々に人気の孵化しかけのあひるの卵を売る屋台、そして再び焼きうどん屋台が登場。これらを最後にNPH前は静けさを取り戻し、また次の朝、いつもと同じ屋台がやってきます。

 屋台の魅力は大衆向けの手ごろな価格設定と、味。わたしがよく食べている塩茹でのとうもろこしはアツアツ、もちもち。素材とほのかな塩味のみの素朴な味わいです。果物をカットして売る屋台も同様、素材の味で勝負といったところ。凝った味付けではないけれど、シンプルなのがかえって飽きさせず、ほぼ毎日屋台に通って約2年。今では、わたしの姿を確認するだけでとうもろこし屋はとうもろこしの皮をむき始め、フルーツ屋は好みの熟し加減の果物をカットし始めます。このように少々押しが強い、けれどもきめ細かなサービスもまた、心をつかんで離さない屋台の魅力なのです。

茹でとうもろこし屋台。自転車の荷台に積んでやってきます。皮ごと茹でたとうもろこしの保温効果は抜群です カットフルーツ屋台。鮮やかな手つきで果物をカットし、次から次へとやってくるお客さんに素早く対応します



カンボジアで初めて、「栄養管理」を行っていくために

(2013年4月16日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 国立小児病院(NPH)では、給食だけでなく、カンボジアで初めて患者の「栄養管理」の導入も試みています。

 日本などで一般的な栄養管理は、「栄養障害リスクの高い患者さんの発見→検査値等に基づく栄養状態のアセスメント→患者さんにあった栄養ケアプランの作成→ケアプランの有効度のモニタリング→栄養状態の改善度の評価」という流れにそって実施されます。

 しかし一度に全てを導入するのは難しいので、NPHでは、まずは取り掛かりとして、「身長・体重の測定→その結果と患者さんの疾患をもとに、給食を処方→モニタリング」の部分に絞ってはじめることにしました(下図を参照)。


 低栄養の患者が多いNPHの医師たちは、即効性の高い栄養療法に大きな関心を持っています。一方、給食での栄養改善については、効果があらわれるのに時間を要することからなかなか関心が高まりません。そのため、先述の3つの流れも、実施がおざなりになっているのが現状です。

 そこで、彼らの、給食を含めた栄養管理への関心を高めるために、FIDRは3月6~7日にカンボジア保健省・NPHと共催で「臨床栄養セミナー」を開催しました。
 セミナーには、聖マリアンナ医科大学病院栄養部長の川島由起子先生を招き、栄養管理の流れ、その中での給食の役割や位置づけを講義してもらいました。

 学んだ知識をすぐに実践に生かせるよう、グループワークも行いました。
 内容は、NPHでよくみられる下痢・貧血・低栄養の患者のサンプルデータをもとに、栄養状態の評価を行い、ケアプランをつくるというもの。参加者は、患者の年齢、身長・体重、血液検査の数値、合わせて病態や主訴を勘案し、NPHの院内食事基準をもとに適切と思われるプランを作成しました。

 セミナーの最後には、NPHのクダン・ユバタ院長が、「これからは、NPHでもっと患者の栄養管理に体系的に取り組んでいこう」と呼びかけました。
 栄養への理解を深め、栄養管理を着実に実践していくことが、給食を通した患者の栄養改善にもつながります。

 今回医師たちが得た、栄養管理についての知識と高まった関心を、取り組み可能なところから実践につなげていけるよう、FIDRはサポートしていきます。

日本の栄養管理システムとNPHの給食システムを関連付けた講義を行う、川島由起子先生 WHO成長曲線を用いて、患者の栄養状態を評価し、病状を考慮して患者に適した食事計画を立てるグループワーク。医師も看護師も一緒になって考えました。



「補完食を作ってみよう!」ビデオでの啓発を始めます

(2012年2月22日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 生後6か月を過ぎた赤ちゃんの健やかな成長には、母乳に加えて栄養価の高い補完食を与えることが大切です。現在カンボジアではWHO(世界保健機関)やユニセフの支援を受け、保健省やNGOが主体となって補完食に関する様々な啓発活動が行われています。しかし農作業や育児で忙しいお母さんたちに、実際に「やってみよう」という気持ちを起こさせるまでにはなかなか至っていません。

 そこで、NPHに子どもを連れてきたお母さんたちをターゲットに、病院待合室で流す補完食の啓発ビデオを制作しました。わが子が病気にかかったお母さんは、子どもの健康への意識が高まっていると考えられるからです。

 ビデオでは、多くのお母さんにとってまだ馴染みのない補完食の機能や大切さについて紹介しています。また、すぐに実践できるよう、料理のデモンストレーションの様子や調理方法、調理上の注意点などを収めました。

 編集にあたっては、いくつもの工夫を凝らしました。
 まず、お母さんの戸惑いをできる限り排除すること。見慣れない食材の組み合わせや調理方法への戸惑いや疑問は、実践への意欲を削ぐことがあります。そこで私たちは、農村で補完食の調理実習 を行った際に寄せられた質問や感想をもとに、補完食の調理にあたりお母さんが戸惑う点を予想し、それに対する解説を盛り込んだ内容としました。そして、食材は自宅の周りで簡単に調達できるもの用い、自由な組み合わせを楽しんで欲しいと伝えました。

 また、視聴者であるお母さんを退屈させないこと。一方的な解説を避けるとともに、子どもと一緒に楽しんで見ることができるよう、アニメーションを取り入れました。「カンボちゃん」という女の子が、補完食の作り方を看護師さんに教わり、視聴者に作ってみようと呼びかけるストーリー展開です。

 このビデオが、補完食の普及と赤ちゃんの健康状態の向上につながることを願っています。