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全国看護師・助産師研究会で、ワリー看護師が発表

(2012年12月12日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 第6回全国看護師・助産師研究会(The 6th National Nursing and Midwifery Conference)が11月23日に開催され、一昨年、昨年に続き、国立小児病院(NPH)の病院給食についてカンボジアの各地から集まった看護師や助産師たちに発表しました。今年は栄養科のワリー看護師がポスター発表(※)を行いました。

 彼女にとっては、初めての研究発表。抄録の書き方から発表の仕方まで、わからないことだらけです。仕事の傍らFIDR職員に相談したり、発表経験者に当日の様子を聞いたり、リハーサルを行ったり。すべてが新しい挑戦でした。

 そして発表当日。
 ワリー看護師は、NPHの給食システムとそこに関わる看護師の働きを丁寧に説明しました。また、もっと患者の栄養問題に目を向けてほしいと訴えました。

 終了後、彼女は満足そうに話してくれました。発表者同士でどうしたらもっと魅力的な発表になるか話し合ったこと、もっと栄養や給食の勉強が必要だと思ったこと。そしてもうひとつ。NPHから参加した病棟看護師に、栄養科看護師の仕事を認めてもらえたこと。

 実は、NPHで給食運営を担う栄養科のワリー看護師は、日頃「NPHの職員たちは栄養が大切って言うけど、他の誰も協力してくれない」と不満を抱いていました。給食運営には病棟職員の協力が不可欠ですが、彼らの理解を得るのは簡単ではないからです。

 このような状況のところに今回の研究発表の場が巡ってきました。私たちはこれが「患者の栄養管理が医療者の大事な仕事のひとつである」と看護師らに呼びかけるよい機会であると考えました。また日常の業務に忙殺され栄養科に籠りきりのワリ―看護師が外部の医療関係者たちと交流し、刺激を受けることもできると感じました。そこで彼女を励まし、「ポスター発表に挑戦してみる」という気持ちを後押ししたのです。

 今回の研究発表で、NPH内外の医療関係者へ、栄養と給食の大切さを伝えたワリー看護師。
 「NPHの給食はカンボジアで唯一。私たちは、もっと自分たちの仕事を誇りに思っていい。明日の朝、栄養科のみんなに伝えるね。」


※ ポスター発表は、研究の計画や成果などをポスターにまとめて掲示し、参加者がそれらを自由に閲覧するという学術研究発表の一形式です。発表者はポスター前にて口頭で説明したり、質問に回答したりします。

当日、作成したポスターを前に、来場者に発表するワリー看護師(右)



国際保健医療学会で見えた、プロジェクトの課題と重要性

(2012年11月19日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 11月3~4日、岡山大学において、国際保健医療学会学術大会が開催されました。その中で「国際保健医療協力と『栄養』」と題したシンポジウムが開かれ、給食支援プロジェクトアドバイザーの草間かおる氏(青森県立保健大学健康科学部栄養学科准教授)が発表しました。このシンポジウムでは、開発途上国で栄養改善の活動に携わる草間氏を含めた6名が、各活動について発表し、その意義や課題、今後の方向性について意見交換を行いました。

 草間氏は、当プロジェクトの活動および2010年に実施した中間評価の結果について発表。評価では、栄養に配慮した給食が適正に提供できるようになったことが確認できた一方、入院期間が短く、病態によっては食事を摂れない患者がいることなどから、患者の栄養状態の変化をどう測るべきかという課題も浮かび上がっていました。

 一般に、食事をベースとした栄養改善は短期間では結果が顕れず、効果が測りにくいと言われています。そのため途上国では即効性があり効果の上がりやすいサプリメントを用いた活動が好まれる傾向にあります。しかし、「長期的に人々の健康を保証するためには食事面からの栄養改善活動は不可欠であり、そこに食事の改善を基本とした給食支援プロジェクトの意義がある」ことを草間氏は強調しました。

 シンポジウムでは、「効果が測りにくい」ことは当プロジェクトのみならず、栄養改善の活動が抱える大きな課題だということ、その一方で、長期的な視野に立って見るならば、食事をベースとした栄養改善が重要であることが認められました。

 当プロジェクトにも、高い関心や様々な意見が寄せられた今回のシンポジウム。課題をどう乗り越えていくかという宿題は残ったものの、途上国における持続的な栄養改善のために、「病院給食」という食事の改善が持つ意義を、国際保健の研究者や実務者に認められる機会となりました。


発表する草間かおるアドバイザー(左)



史上初!母国語の「病院給食運営マニュアル」の作成に着手

(2012年10月01日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 FIDRが給食支援プロジェクトを始めて、今年で7年目。このプロジェクトでは、国立小児病院(NPH)が自分たちで病院給食を運営していくことができるよう支援を続けています。

 FIDRからNPHへのプロジェクトの運営委譲に向けて、2012年3月の発刊を目標に、給食運営マニュアルの作成に着手しました。このマニュアルは、NPHへ運営を移譲した後、栄養科職員が給食運営をしていく中で困難に直面したとき参照できる「手引き書」となること、そしてNPH以外の病院が給食提供を始める際の「参考書」となることを目的としています。

 マニュアルでは、病院給食の概要や患者にとっての必要性に始まり、病院食事基準の設定、献立を作成する方法、調理、具体的な献立例、衛生管理など給食運営に必要な事項について解説します。
 作成にあたっては、「カンボジアの病院環境において役立つマニュアル」となるよう配慮しています。日本語や英語で書かれた給食運営に関するマニュアルは多くありますが、必ずしもカンボジアの現状に合うものではありません。例えば、厨房機器の導入は、高価な上に維持管理が難しいなど得策でないこともあります。その場合、機器がなくても対処できる方法を紹介します。
 また、読み手が理解しやすいように、食材や調理手順の写真をたくさん掲載します。病院給食が一般的ではないカンボジアの人々にとって、このマニュアルが解説する給食システムはイメージしにくいと思われるからです。

 完成すると、史上初めて「クメール語(カンボジア語)で書かれた、病院給食運営マニュアル」が誕生することになります。

 栄養科職員、調理員、FIDR職員がNPHの病院給食運営を通して培ったノウハウや体験した事例を盛り込んだこのマニュアル。FIDRがカンボジアで初の病院給食システムを構築しようと試行錯誤を繰り返し、奮闘した歴史の記録でもあります。

マニュアルに掲載する写真は、プロの写真家を招いて撮影

撮影された写真。
調理の手順・様子(上)や食材(右)の写真をふんだんに掲載し、視覚的にもわかりやすいマニュアルを目指します。



農村で、補完食の調理実習を行いました

(2012年8月23日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 ここ国立小児病院(NPH)には、地方の農村からも多くの赤ちゃんの患者がやって来ます。入院中は彼らに栄養価の高い補完食を提供しますが、退院後村に帰っても栄養のある食事を食べて欲しいというのが私たちの願いです。

 とはいえ、一般的に栄養の知識が普及していないカンボジア。そこで、入院中に家族に栄養教育を行う計画です。
 かねてから農村で食材や赤ちゃんへの食事について情報収集をしたいと考えていたところ、5月29日、FIDRが農村開発プロジェクトを行う村で開かれた、乳幼児の栄養改善を目的とした補完食の調理実習を「講師」として手伝うことになりました。
 「生徒」さんは、保健衛生の知識を村の住民に広めている保健ボランティアさん。補完食という言葉も知らなかった彼らですが、はりきって参加してくれました。

実習中、こんな質問が飛び出しました。
「カニ(※)やタニシは赤ちゃんに食べさせてもいいですか?」

 両方とも、農村では身近で貴重なタンパク源。しかし赤ちゃんの未熟な消化機能には負担が大きすぎ、加熱が十分でない場合には寄生虫感染の危険性もあるため、補完食の食材には適しません。
 このほか、油を加えるタイミングや食材の組み合わせ方などへの戸惑いも聞かれました。
 しかし調理後は、「村にある食材を使って、栄養たっぷりの食事がつくれるのね」、「ぜひ村のお母さんたちに広めたい」など、補完食で赤ちゃんの健康を守ることに前向きな声があがりました。

 調理実習を通して、農村で手に入り補完食に適した食材が明確になった一方、人々が食材の見たことのない使い方に抵抗を感じ、調理手順の些細な部分を気にすることもわかりました。使う食材や作り方だけでなく、調理する人が気にかける情報を盛り込んだ栄養教育の教材を作りたいと思います。

(※)日本のサワガニのように淡水に生息するカニ。農村の人々は川などで捕獲して食料にします

【調理実習の様子】
コンポンチュナン州農村開発プロジェクトでは、この調理実習を契機に、活動地域で補完食の普及を進めていきます。



「患者への聞き取り」がはじまるまで ~待って、待って、待った半年間~

(2012年7月2日)
カンボジア事務所  齋藤志野(管理栄養士)

 「患者さんの状態を見に行ってくるわね。」
 と栄養科の事務所を出るソチェト医師。少し前までは考えられないことでした。

 患者の声を聞き、提供する給食に反映させることは、栄養科の大切な業務のひとつ。
 聞き取りの結果、給食の内容が患者に合っていなければ、主治医に処方の変更をお願いします。また、どんな味付けが好まれるのかを把握したら、給食メニューの見直しにつなげます。一人ひとりに適切な給食が配られ、きちんと食べてもらうためです。

 しかし、私が着任した当初は何度病棟に行こうと誘っても、
 「忙しいから、また今度ね」
 とあっさり断られる日々・・・。

 カンボジアでは、頻繁に患者を訪ねる医師や看護師は珍しく、ソチェト医師の反応も特別なものではありません。そこで、まずは私たちFIDRスタッフのみで患者に会いに行き、聴いた話をソチェト医師に伝えることで興味を喚起するよう努めました。

 今年3月のある日。半ばあきらめの気持ちでソチェト医師を誘うと、
 「午前中は予定があるから、午後でもいい?」
 と今までにない反応が!!
 その頃、補完食を受け取らない患者の存在を調理員から聞き、ソチェト医師は理由を知りたいと思っていたのです。

 ソチェト医師が患者のもとに足を運ぶようになったのは、このような関心に加え、自信を持って患者・保護者に助言できるようになったためだと思います。
 実は彼女、自らの給食に対する理解が少々曖昧なことに気づいていました。しかし、多様化する給食の特徴や、各給食をどんな年齢・疾患の患者に処方すべきかを病棟職員や調理員に繰り返し説明する中で、徐々に曖昧さが減り自信を得たのです。

 半年間待ち続けた、ソチェト医師の変化。私はとても嬉しく思っています。
 元々、誰かに助言するのが好きなソチェト医師。自信がある事柄については、とても丁寧に説明してくれます。だから私たちは、彼女が自信を持てるように、知識を身につける支援をし、自分の知識が正しいと確認できる機会を提供し、さらに、近くで励まし続けることが必要なんだな、と改めて感じます。

<最近の様子>患者訪問中のソチェト医師(右)。患者の目線に合わせて自分の姿勢を変え、聞き取りを行うことは、以前の彼女には見られないことでした。(中央は筆者) <数か月前の様子>聞き取りに訪れたソチェト医師は、患者の足元に立って話しかけていました。今との違いは明らかです。(ベッドの傍らに座っているのが筆者)