【8年間のプロジェクトを振り返って④】
「給食支援」の新たな一歩を踏み出します
(2014年04月01日)
カンボジア事務所 大路紘子(プログラム・マネージャー)
カンボジアでは、病院給食でさえ「空腹を満たすためのもの」に過ぎず、栄養への配慮がなされていませんでした。治療の一環として給食を提供する仕組みを作り、患者の栄養状態を改善したい――そんな思いで、FIDRは2006年4月から2014年3月まで給食支援プロジェクトを続けてきました。 この8年間で、プロジェクト地である国立小児病院(以下、NPH)では、栄養バランスに配慮された給食が調理され、医師の処方により、患者が年齢や病態に合った給食を受け取れるようになりました。 8年のあゆみに区切りをつけ、FIDRは2014年4月から、新たな形の「給食支援」を開始します。目標は、NPHに限らず給食を提供している施設において、子どもの栄養状態を正確に把握し、適切な食事とケア を提供できるようになることです。そのために、3つの活動を実施します。 第一は、NPHにおいて給食が患者の回復により効果を発揮するよう、医師・看護師が患者の栄養状態を正確に把握し、管理できるようになること。具体的には、体重・身長の測定により患者の栄養状態を判断 したり、栄養状態の推移や処方した給食の適切さを定期的に確認し、必要に応じて給食の種類を変更するなどの対応をとることです。 第二は、NPHの給食をモデルとし、病院をはじめ子どもに給食を提供している施設に栄養学的・衛生的に管理された給食を広めること。NPHで培ってきた病院給食の情報や経験をもとに、他の施設の給食管理体制を改善します。 第三は、カンボジアで初となる子どもの栄養必要量の基準を策定すること。これまでは、近隣諸国の基準を参考にするしかありませんでしたが、カンボジア独自の子どもの性別や年齢ごとの基準を作ることで、より適切な給食の提供が可能となります。 FIDRは、8年間の経験と成果をもとにしたこの新プロジェクトが、カンボジアのより多くの子どもたちの栄養改善につながることを目指します。 2014年4月から始まる新しい「給食支援プロジェクト」については、FIDRのウェブサイト でお伝えしていきます。これまで当プロジェクトへのご協力をくださった皆様、また、お見守りくださった皆様に、心より感謝申し上げます。 引き続き、新しい「給食支援プロジェクト」を応援していただけますと幸いです。 |
【8年間のプロジェクトを振り返って①】はこちら
【8年間のプロジェクトを振り返って②】はこちら
【8年間のプロジェクトを振り返って③】
8年間で達成できたことと、これからの課題
(2014年02月27日)
カンボジア事務所 大路紘子(プログラム・マネージャー)
FIDRは、国立小児病院(以下、NPH)において、病院職員たちの手で栄養バランスのとれた給食を作り、全ての入院患者に提供する「給食管理」ができるよう取り組んできました。これに加えて近年は、患者の栄養状態を把握し、それに応じた給食を提供することで栄養状態の回復を図る「栄養管理」 の導入にも注力してきました。入院患者の回復を目的とした病院給食では、「給食管理」と「栄養管理」の両方が不可欠だからです。 これら8年間の取り組みの成果を測るため、2013年8月に日本人栄養専門家3名を招いて事業評価を実施しました。 その結果、「給食管理」の確立が認められました。これは、患者の年齢や性別によって必要な栄養素量などを定めた「院内食事基準」が出来たこと、それに基づき患者の体格・病状に応じた7種類の給食が提供されるようになったこと 、医師による給食処方の仕組みが整った こと、そして、給食に関するすべての事項が医師や看護師で構成される「栄養作業部会」で決定されるようになったことなど、今のNPHで見られる給食の管理・運営の仕組みが機能していることを意味します。このような仕組みは、空腹を満たすための食事が早い者勝ちで配られていた8年前には、見られなかったものです。 一方で、「栄養管理」 については、定着には至っていないと判断されました。NPHでは患者の病状は把握されているものの、栄養状態のアセスメント(体重や身長の測定)やモニタリング(患者の栄養状態の推移や処方給食が適切かどうかの定期的な確認)は十分に行われていません。 今後給食が患者の回復により効果を発揮するためには、「栄養管理」の推進が必要です。FIDRはNPHの経営陣に提言するとともに、今年4月以降、NPHにおける「栄養管理」に重点を置く新プロジェクトの開始を予定しています。 このほか評価では、カンボジア保健省や関連機関が、臨床栄養や病院給食の重要性を認識し始めたことも認められました。将来的には、NPHの病院給食が、カンボジアの医療機関等における給食システムのモデルとなることが期待されます。
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【8年間のプロジェクトを振り返って②】
患者にぴったりの給食を選び、確実に配膳できるようになりました
(2014年01月28日)
元カンボジア事務所 齋藤志野(管理栄養士)
給食支援プロジェクトでは、給食の種類のみでなく、給食の処方の仕組みが大きく改良されました。国立小児病院(NPH)では、給食支援プロジェクト開始前、給食はただ「患者の空腹を満たすもの」と考えられていました。よって、医師の処方も配膳もされていませんでした。 そこでプロジェクトでは、「給食は治療の一環である」と医師たちに説明し、患者一人ひとりへ給食の処方を2010年に開始しました。医師は、患者の年齢や症状にあわせて適切な給食の食種を判断し、処方します。各病棟の看護師は、医師の処方に準じた給食の発注票(食事箋)を栄養科に提出します。処方に基づき調理された給食は、調理員が、患者の名前と照合し一人ひとりに配膳します。 この処方の仕組みは、年を経て、改善されてきました。当初看護師は、毎日1回朝食後に、前日の医師の処方や入退院・食種変更等の情報に基づく食事箋を栄養科に提出していました。栄養科は、この情報を元に昼食以降の給食を用意していました。 この問題は、NPH院長の肝いりにより看護師長会議で話し合われ、退院患者の分も給食が作られ、食材費が無駄になることが特に問題視されました。そこで、従来通り毎朝食後に食事箋を発行するほか、回診で退院が決まった患者情報を昼食配膳後に栄養科に伝えることとしました。これで、退院患者の給食を用意しないで済みます。 本来は1日に3度、新規入院患者や食種変更の情報も更新されるべきであり、今のシステムも完璧なものではありません。しかし、NPHの職員たちが問題意識を持って、自分たちで改善ための小さな一歩を踏み出したことは大きな価値のあることだと考えます。
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